やかんと鍋と日記と

ぐうたらと生きる。

野球場にUFOが来た話

小学生の頃に、UFOを見た。
それも、ボヤーとしたUFOではなく、くっきりしたUFOを。


そんな奇異な出来事に遭遇したのは、少年野球の練習の最中のことだった。
少年野球は毎週金曜日の夜に行われていて、学校が終わった後、一時帰宅して夕食を済ませてから、近所の中学校のグラウンドへ向かう。グラウンドへ向かう間、私はいつも憂鬱な気持ちでいたことを覚えている。野球の練習が大嫌いだったのだ。


野球場に漂う空気感が嫌いで、私はいつも逃げたしたくなるような気持ちで、練習に取り組んでいた。中でも、恐い監督からのノック練習が特に嫌だった。監督は各ポジションに着いた、我々に順番にノックをしていく。私は極度の緊張しいで、順番が回って来る前から、心臓がバクバクと音を立てていた。緊張が高まりすぎて、普段なら何でもないようなゴロを取りこぼしたり、トンネルしたりする。すると、監督は鬼のような形相で、罵声を私に浴びせかけた。そこで、すでに私の心はポッキリと折れているのだが、『もう一丁、お願いします』と言うのが、この世界での常識。私は内心とは180度違うことを大声で言うしかなかった。今思うと、あれは子どもにとって、精神的な成長を促すいい機会だったのかもしれない。でもあの時の私は、本当に嫌で嫌で仕方なかった。


そんな思いを、毎週毎週ずるずると引きづっていた私だったが、イイ子ちゃんな私は、親にその気持ちを伝えることなく、少年野球を2年間全うした。
あの時の私は、本当によく頑張ったと思う。


そんな私にも、一つだけ好きな練習があった。それはマシーンから空高く射出されたフライを、落下地点にいち早く移動して、キャッチする練習だ。機械から打ち出されるから、気が楽だったし、キャッチ出来たら、コーチが一段階難易度を上げてくれて、それも成功したらまた一段階というように、何だかミッションを課せられているような気がして、面白かったのだと思う。




UFOはそのフライ練習をしているとき、不意に現れた。

いつも通り、白球が機械から吐き出され、空高く打ち上げられる。私は瞬時に上を見上げ、落下位置を目指そうとした。

そのとき、私の目が視界の端に奇妙なものを捉えた。今の何だ。私はハヤル気持ちを抑えつつ、まずはフライを捕ることに集中した。

難しいフライをキャッチし、改めて空を見上げる。


そこにはやはり、奇妙なモノが浮かんでいた。


それは楕円形をしていて、側面に大きなオレンジ色の四角いガラス窓のようなものをぐるりと貼り付けられた物体だった。ガラス窓があまりにも大きかったため、そのほとんどをオレンジ色が占めていた。そして、夜空に描かれた絵のようにその場所にとどまっている。


私がそれを見ながら、ぽかんと口を開けていると、徐々に周囲もざわつき始めた。少年から少年へ。ざわめきは一気に伝染し、運動場が興奮に包まれた。


しかし、大人たちは伝染しなかったようだ。少年たちがその物体にうつつを抜かしている中、大人たちは至って冷静で、練習に集中することを促した。

他の少年たちも次第に飽きて、練習に頭を向け始めた。

私はその物体が気になり、チラチラ、チラチラと練習の合間に盗み見ていたが、私も例にもれず、次第に興味をなくしていった。

そうこうして、一時間くらい経った頃だろうか。上を見上げると、そこに不可思議な物体はなくなっていた。

そして、何事もなかったかのように、また日常が始まった。


あれは何だったのだろう。
未だに鮮明に脳裏に浮かぶ、少年時代の衝撃的な出来事である。